EMS美顔器は何をしているのか。薬機法で「言える表示」と「言えない表示」を先に整理する

市販EMS美顔器の大半は医療機器ではなく、広告で言える範囲は筋肉への物理的刺激の事実まで。薬機法と景品表示法の線引きを行政処分の実例と臨床研究の証拠水準とあわせて整理します。

EMS美顔器は家電量販店でも通販サイトでも数千円から手に入り、「顔の筋トレ」という言葉とともに広く売られています。ところが、この製品カテゴリーについて広告で言ってよいことの範囲は、多くの人が想像するよりはるかに狭いのです。理由は単純で、市販のEMS美顔器のほとんどは法律上「医療機器」ではないからです。本記事では、EMS美顔器が体に何をしているのかという仕組みの話と、薬機法(医薬品医療機器等法)のもとで「言える表示」と「言えない表示」がどこで分かれるのかを、行政処分の実例と臨床研究の証拠とあわせて整理します。機器の広告規制はサプリメントや化粧品よりも一段厳しく、証拠があることと広告で言えることは別問題です。この一点を先に押さえておくと、売り手の言葉を読む目が変わります。なお、本記事は情報提供を目的としたものであり、疾病の診断・治療・予防を目的としたものではありません。

EMS美顔器は法律上どんな製品なのですか

市販のEMS美顔器の大半は、法律上は医療機器ではなく、いわゆる「雑貨」に分類される美容機器です。薬機法第2条第4項は医療機器を「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等」と定義しています。家庭用のEMS美顔器はこの承認や認証を受けていないため、医療機器としての効能効果を広告することがそもそもできません。

ここで効いてくる条文が二つあります。薬機法第68条は、承認や認証を受けていない医薬品や医療機器について「その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない」と定めています。つまり未承認の機器に医療機器のような効能を書いた時点で違反になり得ます。もう一つの第66条は、医薬品や医療機器などについて「明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない」と定める誇大広告の禁止です。どちらの条文も主語が「何人も」で始まる点が重要で、メーカーだけでなく販売店、アフィリエイター、メディアもすべて対象になります。条文の原文は東京都保健医療局の抜粋ページで確認できます。

製品区分ごとの承認の要否と広告で言える範囲
区分 承認・認証 広告で言える効果の範囲
家庭用医療機器(認証あり) 薬機法上の認証が必要 認証を受けた効能効果の範囲内のみ
EMS美顔器などの美容機器(雑貨) 承認も認証も受けていない 筋肉への物理的刺激など事実の範囲。身体の構造や機能の変化は言えない
化粧品 届出制 定められた56の効能効果の範囲内。肌への作用は角質層まで

言い換えると、EMS美顔器は「医療機器ほどの審査を受けていないのに、見た目には医療機器のような顔をしている」製品カテゴリーです。この構造こそが、広告規制が厳しくなる理由です。

EMSは体の中で何をしているのですか

EMSがしていることは、微弱な電流で筋肉を直接収縮させること、それだけです。EMSはElectrical Muscle Stimulation(電気的筋肉刺激)の略で、消費者庁の消費者安全調査委員会の資料は「微電流により部位の筋肉を直接刺激し、運動効果を得る方式」と説明しています。同じ資料は続けて、電気を通しにくい性質を持つ脂肪にはほとんど働きかけないため「脂肪を直接減らす効果は期待できない」とも明記しています。国の委員会資料が仕組みのレベルで否定している以上、脂肪減少をうたうEMS広告は仕組みの説明として成り立ちません。

顔に当てる場合、対象になるのは表情筋です。表情筋は体幹の筋肉に比べて小さく皮膚のすぐ下にあるため、比較的弱い電流でも収縮が起きます。使っていて頬がぴくぴく動くのはこの収縮そのものであり、その意味で「筋肉に刺激が届いている」ことは体感どおりです。問題は、その刺激が見た目の変化にどれだけつながるのかという点で、これは後述するとおり証拠がまだ薄い領域です。

「言える表示」と「言えない表示」の線はどこにあるのですか

線は「筋肉への物理的刺激という事実」までにあり、身体の構造や機能の変化を約束した瞬間に越えます。業界団体である日本ホームヘルス機器協会が平成30年6月に発行した「家庭向け美容・健康関連機器適正広告表示ガイド」は、この線引きを具体例つきで示しています。同ガイドによれば、美容機器が表現できる範囲は概ね化粧品の効能効果の範囲までで、家庭用EMS機器については「経皮的電気刺激による筋肉運動の範囲」とされています。肌への言及は角質層まで、真皮や皮下組織への作用はうたえません。

一点だけ注意が必要です。このガイドは業界団体の自主基準であり、法律の条文そのものではありません。ただし厚生労働省の医薬品等適正広告基準と景品表示法を土台に組み立てられており、実務ではこのガイドの水準が事実上の安全ラインとして扱われています。以下は同ガイドに実際に掲載されている対照例です。

日本ホームヘルス機器協会ガイドによる言えない表示と言い換え例
言えない表示 言い換えの例 理由
筋肉の量を増やす EMSで筋肉を鍛える 筋収縮の事実までが範囲。量的変化の断定は不可
リフトアップする お顔を上向き印象へ 顔や身体の形状変化はうたえず、印象面の表現にとどめる
脂肪を燃焼できる エクササイズができる 美容効果の範囲を超える
血行が良くなる 肌の環境を整える 医療機器的効果の表現にあたる
アンチエイジング エイジングケア(年齢に応じた対策) 老化への作用を断定する表現は不可
シワが消える、痩せることができる 言い換え不可、使用しない 身体の構造機能への効果そのもの

このガイドには「若返り」「デトックス」「代謝の向上」「マッサージ効果がある」も使用できない用語として並んでいます。マッサージ効果という日常語すら使えないと知って驚く人は多いのですが、マッサージは医療類似行為に接続する概念であり、雑貨の広告には持ち込めないのです。売り手の視点で読むと、EMS美顔器の広告で合法的に言えるのは「筋肉を電気で刺激して動かす」という事実と、印象や気分の表現までです。逆に買い手の視点では、この線を越えている広告はそれ自体が信頼性のシグナルとして機能します。

実際に処分された例はあるのですか

あります。しかも大手が含まれます。2020年3月31日、消費者庁はEMS機器の販売事業者4社(オークローンマーケティング、ディノス・セシール、プライムダイレクト、ヤーマン)に対し、景品表示法の優良誤認にあたるとして措置命令を出しました。対象はスレンダートーンアブベルトやトルネードRFローラーなどで、テレビ通販や動画で一定期間の使用により腹部の痩身効果が得られるかのような表示を行っていたところ、消費者庁が根拠資料の提出を求めても、提出された資料は表示を裏付ける合理的な根拠と認められなかったというものです。

このうちヤーマンに対しては、2021年8月11日に景品表示法第8条に基づく課徴金納付命令が出ています。報道によれば課徴金額は239万円で、対象は自社サイトの動画において「たった1カ月でウエストがマイナス7.5cm」といった表示を行っていた件です。行政処分は腹部用途の痩身表示が中心でしたが、根拠なき身体変化の表示が処分対象になるという構図は、顔用のEMS機器にそのまま当てはまります。

もう一つ実務上重要なのが、景品表示法の不実証広告規制です。日本ホームヘルス機器協会のガイドも引用しているとおり、効果をうたう広告について行政から求めがあった場合、事業者は裏付けとなる客観的データを15日以内に提出できなければなりません。「後から実験すればよい」は通用しない設計になっています。

「効果には個人差があります」と書けば逃げられますか

逃げられません。2020年の措置命令の事案では、各社の広告に「効果には個人差があります」「個人の感想です」といった打消し表示が付いていましたが、消費者庁はこれらの表示について、消費者が受け取る効果の認識を打ち消すものではないと判断しました。つまり、大きな文字で痩身効果を見せながら小さな文字で個人差と書く手法は、法的な防御になりませんでした。

これは買い手にとって実用的な判断材料になります。打消し表示の小ささと本体表示の派手さのギャップが大きい広告ほど、事業者自身が「本体表示は言い過ぎである」と自覚している可能性が高いからです。サプリメントの表示の読み方について書いた成分表示ラベルの読み方の記事でも同じ原則を扱いましたが、機器でも食品でも、表示の構造そのものが情報になります。

見た目への効果の科学的根拠はどのくらい強いのですか

「筋肉が収縮する」ことは確立していますが、シワやたるみといった見た目への効果の証拠は、小規模で短期間の試験に限られており、現時点では弱いと言わざるを得ません。本記事の執筆にあたり確認できた主な臨床研究は次の三つです。

顔用EMS・電気刺激機器の主な臨床研究(本記事で確認したもの)
研究 デザイン 人数と期間 主な結果 限界
Kavanagh 2012 (Journal of Cosmetic Dermatology) ランダム化比較試験、部分盲検 健康な女性108名、12週、1日20分を週5日 超音波計測で頬骨筋の厚みが対照比18.6パーセント増加、使用群の80パーセント以上が引き締まり感の向上を自己報告(対照群は5パーセント未満) 対照群は非介入で、偽機器を使ったプラセボ対照ではないため期待効果を除外できない
Omatsu 2024 (Journal of Cosmetic Dermatology) 前向き分割顔比較試験 30から59歳の健康な女性24名、8週 介入側で皮膚弾力とシワの改善(それぞれp値0.05未満)、顎ラインの角度(p値0.01未満)、ほうれい線の最大深さ(p値0.03)などが報告された 24名と小規模で、追跡期間が8週と短い
集束電場技術の試験 2025 (PMC掲載) 単盲検の自己対照試験 42から60歳の女性31名、14から28日 皮膚弾力の指標が改善(p値0.001未満)、上まぶたの挙上高が28日で11.33パーセント上昇 目元限定、期間が最長28日、参加者は中国人女性のみと著者自身が明記

三つとも査読誌または査読付きリポジトリに掲載された研究であり、方向性としては一貫して肯定的です。しかし数十人規模、8から12週、追跡なしという枠を一つも出ておらず、独立したグループによる大規模な再現もメタ解析もまだありません。筋肉の厚みという客観指標が動いたKavanaghの結果は注目に値しますが、それが数か月後も維持されるのか、見た目の評価にどれだけ波及するのかは未検証です。現時点の正直な要約は、仕組みは本物、筋肉への短期作用の証拠は中程度、見た目の長期的な変化の証拠は弱い、となります。

そしてここが機器カテゴリーの独特なところですが、仮にこの証拠がもっと強くなったとしても、承認を取らない限り広告で「シワが消える」とは言えません。証拠の強さと表示の適法性は別の軸で動きます。研究結果を紹介できるのは本記事のような情報提供の文脈までで、特定商品の販売ページに同じ数字を載せれば薬機法の問題になり得ます。証拠の階層をどう読むかは、コラーゲンの経口と塗布の証拠を比較した記事で使ったのと同じ物差しです。

安全性で知っておくべきことはありますか

あります。首まわりへの使用が失神につながり得ることを、国の消費者安全調査委員会が令和6年4月11日付の文書で公式に注意喚起しています。きっかけは、ヘッドホン型の家庭用EMS美顔器を首の両側に挟むように装着したところ、稼働から十秒ほどで突然めまいのような状態に陥り、その場に倒れ込んで吐き気を催したという申出でした。

同文書が専門医の監修のもとで説明しているメカニズムは、頚部には迷走神経の遠心路と交感神経の求心路が走っており、電気刺激や頸動脈付近への圧迫が自律神経の誤作動を引き起こし、徐脈や血圧低下から反射性失神に至り得るというものです。反射性失神は立位で起きやすく、失神そのものより転倒して頭を打つ二次被害が怖いと指摘されています。文書には事故情報データバンクに登録された類似事例として、美顔器の使用中や使用後にめまいや動悸を生じた複数の報告も引用されています。

同文書の使用上のアドバイスは具体的です。頸部付近に美顔器を押し当てたり装着したりしない、寝不足時や飲酒後の使用は控える、頭が締め付けられる感覚や物が二重に見える状態、吐き気などの前兆を感じたらその場でしゃがむか横になる、というものです。顔用として売られている機器であっても、首は顔の続きではなく、電気刺激を避けるべき別の部位だと理解しておくのが安全です。

この話はエヴァリーの製品とどう関係しますか

当店が扱うLEDマスクも、法律上はEMS美顔器と同じ「医療機器ではない美容機器」であり、まったく同じ広告規制の中にいます。私たちがLEDマスクについて病気の治療や皮膚の構造変化をうたわないのは、謙遜ではなく法律上の義務です。そしてLEDについても、大規模で独立した長期臨床証拠はまだ限られているというのが正直な現状で、この点は赤色光療法の基礎を解説した記事LEDと従来型スキンケアを比較した記事で証拠の水準ごと開示しています。

機器選びという観点では、EMSであれLEDであれ、確認すべきポイントは共通です。安全面の枠組みについてはLEDマスクの安全性と規制を整理した記事が、毎日の運用についてはLEDスキンケアの日常ルーティンの記事が参考になります。広告の言葉が派手な製品ほど、この記事で見てきた線引きに照らして読み直してみてください。

本記事の主張はどのくらい信頼できますか

読者が本記事自体を検証できるよう、主要な主張ごとに根拠の種類と強さを自己採点しておきます。強いと書けるのは一次資料が直接支えている主張だけで、臨床効果に関する主張は現状の証拠水準に合わせて低く付けています。

本記事の主要な主張の証拠強度の自己評価
主張 根拠の種類 強さ
市販EMS美顔器の大半は医療機器ではない 薬機法の定義条文と業界団体ガイドの適用範囲記述 強い
未承認機器の効能広告は違法になり得る 薬機法第66条・第68条の条文と行政処分の実例 強い
打消し表示は法的防御にならない 2020年措置命令における消費者庁の判断(報道経由で確認) 中程度
EMSで表情筋の厚みが増した報告がある 単一のランダム化比較試験(108名、非介入対照) 中程度
シワやたるみの見た目が長期的に変わる 小規模短期試験のみ、独立再現なし 弱い
脂肪を減らす効果は期待できない 国の委員会資料による仕組みレベルの説明 強い(否定方向で)
首への使用は失神リスクがある 国の委員会の事故事例と専門医見解、ただし事例数は少ない 中程度

よくある質問

EMS美顔器は医療機器ですか

市販品の多くは医療機器ではなく雑貨に分類される美容機器です。医療機器であれば本体やパッケージに医療機器としての認証番号が表示されているはずなので、そこで見分けられます。認証のない機器が医療機器的な効果をうたっていたら、その広告自体が薬機法上問題になり得ます。

「リフトアップ」と書いてある広告は違法ですか

業界団体のガイドでは、リフトアップは顔の形状変化をうたう表現として使用できない用語に挙げられています。個別の広告が違法かどうかを判断するのは行政ですが、この語を平気で使っている売り手は、少なくとも業界の自主基準を守っていないと判断できます。

「効果には個人差があります」と書いてあれば安心ですか

むしろ逆です。2020年の措置命令の事案では、この種の打消し表示があっても優良誤認の認定は覆りませんでした。派手な効果表示に小さな打消しが付いている広告は、警戒のシグナルとして読むのが実用的です。

首に使ってもいいですか

避けてください。消費者安全調査委員会は令和6年4月の文書で、頸部付近への装着や押し当てを避けるよう明確に助言しています。迷走神経への電気刺激や頸動脈付近への圧迫が反射性失神につながり得るためで、実際にめまいや転倒の事例が報告されています。

どのくらい使えば見た目が変わりますか

断定できるだけの証拠がありません。肯定的な結果を出した研究は8週から12週、週5日から毎日という使用条件でしたが、いずれも数十人規模の短期試験で、効果の持続も未検証です。数回の使用で劇的に変わるという説明は、現在の研究水準からは支持されません。

買う前に何を確認すべきですか

三点あります。第一にペースメーカー使用者や心疾患のある人は使用できないなどの禁忌事項です。第二に効果の根拠として示されているデータの試験条件(人数、期間、対照の有無)です。第三に広告表現がこの記事で見た線引きを守っているかどうかで、守っていない売り手の他の説明も割り引いて読むべきです。

参考文献

本記事は情報提供を目的としたものであり、疾病の診断・治療・予防を目的としたものではありません。機器の使用にあたっては各製品の取扱説明書と禁忌事項を必ず確認してください。

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