ビタミンDの話題には、二つのまったく違う話が混ざって流れています。一つは日本人の血液を測ったら低い値が多かったという話で、もう一つはビタミンDを飲ませたら骨折や病気が減るのかを試した話です。前者は現状の記述であり、後者は介入の効果の検証です。この二つは確かめ方も、確かめられている度合いも違うのに、広告や記事では「日本人の98パーセントが不足、だから摂りましょう」という一本の線でつながれてしまいます。この記事では、その線を一度切り離して、それぞれの根拠がどこまで強いのかを、都合の悪い結果も省かずに整理します。
先に結論を書きます。日本人の血中ビタミンD濃度が学会の基準で見て低い側に寄っていることは、査読を経た複数の調査で確認できる確かな話です。一方で、健康な成人がビタミンDを足すと骨折が減るという主張は、数万人規模の無作為化試験とメタ解析でくり返し否定されています。血中濃度が低いという事実と、サプリメントで何かが良くなるという主張は、別々に検証されなければならない別の命題です。以下では判定基準、日本人の血中濃度、摂取量と日光、骨、免疫、観察研究との食い違い、過剰摂取、日本の表示制度、検査の順に確認し、最後に本記事の主張を自分で採点した表を置きます。
「ビタミンD不足」という言葉は、どの数値で線を引いているのですか
答えを先に書くと、日本では血清25(OH)D濃度という一つの指標で線を引いており、30 ng/mL以上を充足、20以上30 ng/mL未満を不足、20 ng/mL未満を欠乏と判定します。この区分は日本内分泌学会と日本骨代謝学会による「ビタミンD不足・欠乏の判定指針」に示されたもので、日本内分泌学会雑誌の第93巻 S.March号(2017年3月20日発行、1から10ページ)に掲載されています。25(OH)D(25-ヒドロキシビタミンD、血液中でビタミンDの貯蔵状態を反映する代謝物)は、皮膚で作られた分と食事から入った分の両方を含むため、ビタミンDの体内の足り具合を見る標準的な指標として使われています。
ここで注意が必要なのは、この30 ng/mLという線が、病気の有無を分ける線ではないという点です。判定指針が示しているのは、骨の健康を考えたときに望ましいとされる濃度の区分であり、29 ng/mLの人が病人で31 ng/mLの人が健康という意味ではありません。また国際的には充足の線を20 ng/mLに置く立場もあり、どこで切るかによって「不足している人の割合」は大きく動きます。この記事で出てくる割合の数字は、すべてどの線で切ったかという条件つきの数字だと読んでください。
| 区分 | ng/mL | nmol/L(おおよその換算) |
|---|---|---|
| 充足 | 30以上 | 75以上 |
| 不足 | 20以上30未満 | 50以上75未満 |
| 欠乏 | 20未満 | 50未満 |
海外の論文はnmol/Lという単位を使うことが多く、1 ng/mLは約2.5 nmol/Lです。後で出てくる日本の地域コホート研究は平均50.1 nmol/Lという値を報告していますが、これは約20 ng/mLにあたり、判定指針では欠乏と不足のちょうど境目に位置します。単位が違うだけで数字の見た目が2.5倍変わるので、記事や広告で見かけた数値がどちらの単位なのかは毎回確認する価値があります。
日本人の血中濃度を測った調査は、実際に何を示しているのですか
答えを先に書くと、確認できた三つの調査はいずれも低い側に寄った分布を示していますが、「不足」の割合は82パーセントから98パーセントまで調査によって幅があり、どれも全国を代表する標本ではありません。最も引用される数字は東京慈恵会医科大学などのグループによる研究で、The Journal of Nutrition誌2023年4月号(第153巻4号1253から1264ページ)に掲載されました。この研究は2019年4月から2020年3月に東京都内で健康診断を受けた5,518人の血清を全自動のLC-MS/MS(液体クロマトグラフィー質量分析、物質を直接測り分ける方法で、この分野では基準となる測定法)で測り、論文の抄録は「98パーセントが不充足(30 ng/mL未満)を示した」と記述しています。
この論文には、引用する側が知っておくべき点が二つあります。一つは、報告された基準範囲が女性7から30 ng/mL、男性5から27 ng/mL、全体6から29 ng/mLと抄録に書かれている一方で、大学の報道発表資料では男女が逆の順で紹介されている点です。もう一つは、この論文に対する訂正(corrigendum)が同誌の2026年3月号(第156巻101392)として公表されている点で、訂正の内容そのものは本稿の執筆時点で確認できませんでした。98パーセントという数字を使うなら、東京の健診受診者という限定された集団の数字であり、かつ訂正が出ている論文の数字だと添えるのが誠実な引用の仕方です。
二つ目の調査は、人間ドック受診者1,333人を対象にした報告で、日本人間ドック学会の機関誌「人間ドック」第37巻4号(2022年、684から692ページ)に掲載されています。この報告では欠乏(20 ng/mL未満)と不足(20以上30 ng/mL未満)を合わせて全体の82パーセントとされており、同じ基準を使っても集団が変われば割合が16ポイント動くことを示しています。三つ目は新潟県村上市などの住民8,285人を追跡した村上コホート研究で、British Journal of Nutrition誌の2025年の論文が平均25(OH)D濃度を50.1 nmol/L(標準偏差18.1)と報告しています。この研究は測定に化学発光免疫測定法を使っており、著者自身がLC-MS/MSより約10パーセント低い値が出ると注記しています。
| 調査 | 対象と人数 | 測定法 | 報告された値 |
|---|---|---|---|
| J Nutr 2023年(第153巻1253ページ) | 東京の健診受診者 5,518人、2019年4月から2020年3月 | 全自動LC-MS/MS | 98パーセントが30 ng/mL未満。訂正あり |
| 人間ドック 2022年(第37巻684ページ) | 人間ドック受診者 1,333人 | 論文記載の方法 | 欠乏と不足を合わせて82パーセント |
| 村上コホート(Br J Nutr 2025年) | 新潟県の地域住民 8,285人、平均11.4年追跡 | 化学発光免疫測定法 | 平均50.1 nmol/L(約20 ng/mL) |
ここで一つ、はっきり書いておくべき限界があります。本稿で確認できた範囲では、血中25(OH)D濃度を全国規模で測った公的な統計調査は見つかりませんでした。国民健康・栄養調査が把握しているのは食事からの摂取量であって、血液の濃度ではありません。つまり「日本人の98パーセントが不足」という言い方は、全国調査の結果ではなく、東京の一集団の調査結果を全国に広げた表現です。誰が本当に足りていないのかという問いの立て方については、鉄と葉酸で誰が実際に不足しているのかを整理した記事でも同じ落とし穴を扱っています。
食事と日光から、どれくらいのビタミンDが入ってくるのですか
答えを先に書くと、日本人の食事からの摂取量は目安量を下回っており、残りを埋めるはずの日光による生成は、季節と緯度で何倍も変わります。国立医薬基盤・健康・栄養研究所がまとめている情報によれば、日本人の食事摂取基準(2025年版)でのビタミンDの目安量は18歳以上の男女とも1日9.0マイクログラム、耐容上限量は1日100マイクログラムです。同じ資料は、2019年の国民健康・栄養調査での摂取量を男性で平均1日7.4マイクログラム、女性で平均1日6.4マイクログラムと記載しています。目安量に対して2マイクログラムから3マイクログラムほど足りていない、という程度の差です。
日光についてはもっと具体的な推定があります。国立環境研究所と東京家政大学のグループは、日本人に多いスキンタイプIIIの人が顔と両手の甲に相当する600平方センチメートルを晴天日の太陽光にさらしたとき、ビタミンDを5.5マイクログラム作るのに必要な時間を地点別に計算しました。2013年8月30日公表のこの推定では、12月の正午で那覇7.5分、つくば22.4分、札幌76.4分、7月の正午では那覇2.9分、つくば3.5分、札幌4.6分です。元になった論文はMiyauchiらによるJournal of Nutritional Science and Vitaminology誌第59巻257から263ページ(2013年)です。
| 地点 | 12月 正午 | 7月 正午 |
|---|---|---|
| 那覇 | 7.5分 | 2.9分 |
| つくば | 22.4分 | 3.5分 |
| 札幌 | 76.4分 | 4.6分 |
この表には二つの但し書きがついています。第一に、計算は晴天日を前提にしており、研究所自身が冬の札幌は晴天日が少ないため実際にはより長い時間が必要になると述べています。第二に、この推定が目標にした5.5マイクログラムは当時の目安量であり、現在の目安量9.0マイクログラムよりも低い値です。つまり現行の目安量に合わせるなら、表の時間はいずれも延びる方向に読み替える必要があります。日焼け止めや窓ガラスが紫外線をどう遮るかという別の論点については、UVAとUVBの波長と窓ガラスの規格を数値で整理した記事のほうが詳しく扱っています。
なお2023年のJournal of Nutritionの研究は、測定された25(OH)Dのほとんどが動物性食品や日光に由来するD3であり、しいたけなどの植物由来のD2はほとんど検出されなかったとも報告しています。きのこを食べているから足りているはずだ、という見込みは、少なくともこの集団の血液では確認されませんでした。
骨について、大規模試験は何を示したのですか
答えを先に書くと、ビタミンDを足して骨折が減るという結果は、数万人規模の試験でもメタ解析でも得られていません。米国で行われたVITAL試験は25,871人を1日2000 IUのビタミンD3または偽薬に無作為に割り付け、中央値5.3年追跡しました。骨折を主要評価項目とした解析はNew England Journal of Medicine誌2022年(第387巻4号299から309ページ)に掲載され、全骨折のハザード比0.98(95パーセント信頼区間0.89から1.08、p=0.70)、非脊椎骨折0.97(0.87から1.07)、大腿骨近位部骨折1.01(0.70から1.47)と、いずれも差は認められませんでした。
単独の試験ではなく、集めた結果でも同じです。Bollandらによるメタ解析はLancet Diabetes and Endocrinology誌2018年(第6巻11号847から858ページ)に掲載され、81件の無作為化比較試験、53,537人分のデータを統合しました。全骨折は36試験44,790人で相対危険度1.00(0.93から1.07)、大腿骨近位部骨折は20試験36,655人で1.11(0.97から1.26)、転倒は37試験34,144人で0.97(0.93から1.02)、骨密度は1年から5年で群間差がマイナス0.16パーセントから0.76パーセントの範囲でした。著者らは、ビタミンD補充は骨折も転倒も予防せず、骨密度への臨床的に意味のある影響もないと結論しています。
この結果をどう読むかには、公平に言える反論が一つあります。VITAL試験の参加者はビタミンD欠乏者を選んで組み入れた集団ではなく、骨折のリスクが高い人ばかりでもありません。すでに足りている人に足しても差が出ないのは当然だ、という指摘には筋があります。ただし、だから日本人なら効くはずだという推論は、それ自体が検証されていない仮説です。本記事で引用した大規模試験はいずれも日本国内で行われたものではなく、日本人の低めの分布に対してビタミンD補充が骨折を減らすかを直接確かめた同規模の試験は、確認できませんでした。
免疫について、どこまで言えるのですか
答えを先に書くと、急性呼吸器感染症については小さな効果が報告されており、自己免疫疾患については一つの試験が境界線上の結果を出していますが、どちらも強い根拠とは言えません。Jolliffeらのメタ解析はLancet Diabetes and Endocrinology誌2021年(第9巻5号276から292ページ)で、46件の無作為化比較試験、75,541人を統合し、1回以上の急性呼吸器感染症を起こした人の割合のオッズ比を0.92(95パーセント信頼区間0.86から0.99)と報告しました。著者らは、ビタミンD補充は安全で全体としてリスクを下げたが、低下の幅は小さいと述べています。毎日投与のサブグループではオッズ比0.78(0.65から0.94)とより大きな値が報告されていますが、これは主解析ではなくサブグループ解析の数字です。
自己免疫疾患についてはVITAL試験の報告がBMJ誌2022年(第376巻e066452)に掲載されています。1日2000 IUを5年続けた群で確認された自己免疫疾患は123例、偽薬群は155例で、ハザード比0.78(0.61から0.99、p=0.05)でした。信頼区間の上限が0.99、p値が0.05という、統計的な境界にちょうど乗っている結果です。同じ試験の本体の解析では、浸潤がんのハザード比0.96(0.88から1.06、p=0.47)、主要心血管イベント0.97(0.85から1.12、p=0.69)と、いずれも差はありませんでした。
死亡についてはオーストラリアのD-Health試験があります。21,315人を月1回6万IUまたは偽薬に割り付け、中央値5.7年の追跡で1,100人の死亡が記録され、全死因死亡のハザード比は1.04(0.93から1.18、p=0.47)でした。著者らは高用量ビタミンDは全死因死亡を減らさなかったと結論し、探索的解析ではがんによる死亡リスクが高まる可能性に触れています。探索的解析は仮説を作るための分析であり、害を証明するものではありませんが、安全側に倒して読むべき注記です。大規模試験の結果が期待より小さく出るという現象そのものについては、マルチビタミンの大規模試験を整理した記事で同じ構造を扱っています。
| 研究 | 人数と用量 | 評価した項目 | 結果(信頼区間) |
|---|---|---|---|
| VITAL(NEJM 2019年) | 25,871人、1日2000 IU、中央値5.3年 | 浸潤がん、主要心血管イベント | 0.96(0.88から1.06)、0.97(0.85から1.12) |
| VITAL骨折(NEJM 2022年) | 同一集団 | 全骨折 | 0.98(0.89から1.08)、差なし |
| Bollandメタ解析(2018年) | 81試験、53,537人 | 骨折、転倒、骨密度 | 全骨折1.00(0.93から1.07)、転倒0.97(0.93から1.02) |
| Jolliffeメタ解析(2021年) | 46試験、75,541人 | 急性呼吸器感染症 | オッズ比0.92(0.86から0.99)、幅は小さい |
| VITAL自己免疫(BMJ 2022年) | 25,871人、5年 | 自己免疫疾患の発症 | 0.78(0.61から0.99、p=0.05)、境界線上 |
| D-Health(2022年) | 21,315人、月1回6万IU | 全死因死亡 | 1.04(0.93から1.18)、減らなかった |
| Sanders(JAMA 2010年) | 70歳以上の女性2,256人、年1回50万IU | 転倒、骨折 | 転倒1.15(1.02から1.30)、骨折1.26(1.00から1.59) |
観察研究と介入試験が食い違うのはなぜですか
答えを先に書くと、観察研究は「濃度が低い人は結果が悪い」ことを示せますが、「濃度を上げれば結果が良くなる」ことは示せないからです。先に触れた村上コホート研究は、新潟県の住民8,285人を平均11.4年追跡し、季節と性別で層別した五分位のうち最も低い群(中央値28.2 nmol/L、約11 ng/mL)の全死因死亡のハザード比を1.46(1.13から1.88)と報告しました。数字としては明確な関連です。しかし同じ論文が、追跡中の濃度の変化を見ていないこと、測りきれていない交絡因子があり得ること、採血が冬以外の季節に偏っていることを限界として挙げています。
食い違いの説明として、少なくとも三つが同時に成り立ちます。第一に逆の因果で、病気がある人や動けない人は外に出ず、結果として血中濃度が低くなります。第二に交絡で、屋外で活動する習慣そのものが健康と結びついており、血中濃度はその習慣の目印にすぎない可能性があります。第三に用量と期間の問題で、介入試験の用量や追跡年数が足りていない可能性です。血中濃度の低さは健康状態を映す鏡である、という読み方は、観察研究と介入試験の結果の両方を同時に説明できる唯一の解釈です。これを否定するには、日本人の低い分布を対象にした介入試験が必要になります。
たくさん摂れば、それだけ良いのですか
答えを先に書くと、逆に悪くなった試験があり、上限が決められているのは理由があってのことです。前掲のSandersらの試験はJAMA誌2010年(第303巻18号1815から1822ページ)に掲載され、70歳以上で骨折リスクの高い女性2,256人に年1回50万IUのコレカルシフェロールまたは偽薬を3年から5年投与しました。結果は転倒の発生率比1.15(1.02から1.30、p=0.03)、骨折の発生率比1.26(1.00から1.59、p=0.047)で、いずれもビタミンD群のほうが多いという方向でした。年1回のまとめ投与という特殊な設計であり、毎日少量を摂る場合に当てはまるとは限りませんが、多ければ良いという直感が外れた実例です。
日本の食事摂取基準(2025年版)では耐容上限量が1日100マイクログラム(4000 IU)と設定されています。これは健康障害が起きないと考えられる上限であり、超えれば必ず害が出る境界ではありませんが、サプリメントを複数併用すると意外に近づく値です。脂溶性ビタミンは水溶性と違って体に蓄積するため、摂りすぎの管理は水溶性ビタミンより重要になります。ビタミンB群や鉄のように水に溶ける成分との扱いの違いは、ビタミンBと鉄と葉酸の栄養機能表示を整理した記事と読み比べると見えやすくなります。
日本の食品表示では、ビタミンDについて何を書けるのですか
答えを先に書くと、書ける文は一つに決まっており、その文は骨の形成を助けるという栄養素としての働きまでで、病気の予防や改善には触れません。国立医薬基盤・健康・栄養研究所の情報によれば、ビタミンDを栄養機能食品として表示する場合、1日当たりの摂取目安量に含まれる量は下限1.65マイクログラム、上限5.0マイクログラムの範囲でなければならず、表示できる機能の文は「ビタミンDは、腸管でのカルシウムの吸収を促進し、骨の形成を助ける栄養素です。」です。これに加えて、注意喚起として多量摂取により疾病が治癒したりより健康が増進するものではないこと、1日の摂取目安量を守ることを書く必要があります。
東京都保健医療局の解説によれば、栄養機能食品には「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。」および「本品は、特定保健用食品と異なり、消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません。」という表示も必要です。つまり栄養機能食品は、消費者庁が個別に効果を審査した食品ではありません。この制度全体の構造は栄養機能食品の表示制度を解説した記事で詳しく扱っています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 1日当たりの下限値 | 1.65マイクログラム |
| 1日当たりの上限値 | 5.0マイクログラム |
| 書ける機能の文 | ビタミンDは、腸管でのカルシウムの吸収を促進し、骨の形成を助ける栄養素です。 |
| 書けない内容 | 病気の予防、治療、改善。骨折や感染症が減るという主張 |
| 必要な注意書き | 多量摂取で疾病が治癒したりより健康が増進するものではないこと、摂取目安量を守ること、個別審査を受けていないこと |
ここで自分の側のことも書きます。当店が扱うビタミンDを含む製品も、この栄養機能食品の枠の中にあります。したがって当店の製品について、骨折を防ぐ、免疫を高める、感染症を減らすといった主張はできませんし、この記事で確認した大規模試験の結果を見るかぎり、健康な成人全般にそうした効果を期待できる根拠もそろっていません。表示できる範囲は、食事で足りない分を補う栄養素としての役割までです。なお栄養機能食品の上限5.0マイクログラムは、食事摂取基準の目安量9.0マイクログラムより低い値です。制度の中の数字と、必要量としての数字は、そもそも別の物差しだということになります。
血中濃度の検査は受けたほうがよいのですか
答えを先に書くと、主要な診療ガイドラインは健康な人に対するルーチンの検査を推奨しておらず、日本の保険診療でも測れる場面は限られています。米国内分泌学会の2024年の診療ガイドラインは、Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism誌(第109巻8号1907から1947ページ)に掲載され、検討したすべての集団についてルーチンの25(OH)D検査を行わないことを提案しています。同じガイドラインは、75歳未満の健康な成人に対して、疾病リスクを下げる目的で食事摂取基準を超える経験的な補充を行わないことも提案しています。他方で1歳から18歳、75歳以上、妊娠中の人、高リスクの前糖尿病の人には補充を推奨しており、年齢と状態で線を引いています。
日本の保険診療については、検査項目の算定要件として、25-ヒドロキシビタミンDはビタミンD欠乏性くる病およびビタミンD欠乏性骨軟化症の診断時に1回、その後は3か月に1回を限度として算定でき、原発性骨粗鬆症では薬剤治療方針の選択時に1回に限り算定できるとされています。この算定要件については、検査センターの公開する検査情報の解説を参照しました。これは厚生労働省の通知そのものではなく一次資料ではありませんので、実際の運用は受診先の医療機関に確認してください。要するに、気になるから測るという使い方は、現行の制度では想定されていません。
ここで注意しておきたいのは、ビタミンDの検査と補充を広く勧める団体の文書がインターネット上に流通しており、中には学会名を冠した一般社団法人の名義で、用量まで具体的に示したものもあるという点です。発信元の性質と、その主張が査読を経た研究や公的なガイドラインとどう整合するのかは、別に確認する必要があります。診断や治療の判断は、この記事ではなく医師との相談で決めてください。
この記事の主張は、それぞれどれくらい強いのですか
この記事の中にも、強い主張と弱い主張が混ざっています。読者が自分で重みづけできるように、本文の主な主張を根拠の種類ごとに自己採点しました。弱いものは弱いと書いています。
| 主張 | 根拠の種類 | 強さ |
|---|---|---|
| 日本では30 ng/mL未満を不充足と判定する | 学会の判定指針(2017年) | 強い。制度上の定義であり争いがない |
| 日本人の血中濃度は低い側に寄っている | 査読論文3件(東京5,518人、人間ドック1,333人、新潟8,285人) | やや強い。方向は一致するが全国代表標本はない |
| 98パーセントという数字 | 査読論文1件。訂正が公表されている | 弱い。単一都市の集団で、訂正の内容が未確認 |
| 食事からの摂取量は目安量を下回る | 国民健康・栄養調査の値を公的機関が整理したもの | 強い。ただし差は2から3マイクログラム程度 |
| 冬の高緯度では日光での生成が不足しやすい | 数値シミュレーションと観測(2013年) | 中程度。晴天日の仮定と旧目安量に基づく推定値 |
| 補充で骨折は減らない | 大規模無作為化試験と81試験のメタ解析 | 強い。ただし対象は欠乏者を選んだ集団ではない |
| 急性呼吸器感染症をわずかに減らす | 46試験75,541人のメタ解析 | 中程度。効果の幅は小さく信頼区間の上限は0.99 |
| 自己免疫疾患を減らす | 無作為化試験1件、p=0.05 | 弱い。境界線上の単一結果で、追試が必要 |
| 濃度が低い人は死亡率が高い | 地域コホート研究1件、11.4年追跡 | 中程度。関連は明確だが因果は示せない |
| 高用量のまとめ投与は害になり得る | 無作為化試験1件(年1回50万IU) | 中程度。設計が特殊で日常の摂り方には直結しない |
| 当店の製品に効果の主張はできない | 食品表示の制度と上記の試験結果 | 強い。制度上も根拠上も主張できない |
よくある質問
血液検査を受けずに、自分が足りているか判断できますか
できません。血中25(OH)D濃度は症状から推定できる指標ではなく、低くても自覚症状がないことが普通です。一方で、米国内分泌学会の2024年ガイドラインは健康な人へのルーチン検査を推奨していません。測らないと分からないが、測ることも勧められていない、という座りの悪い状態が現状です。
日焼け止めを使うとビタミンDが作れなくなりますか
紫外線を遮るという機序からは生成量が減る方向に働きますが、日常の塗り方での実際の影響の大きさは、本稿では確かな数値を確認できませんでした。国立環境研究所の推定が示すように、必要時間そのものが季節と地点で10倍以上変わるため、日焼け止めの寄与だけを切り出すのは簡単ではありません。波長ごとの性質については紫外線の数値を整理した記事を参照してください。
サプリメントと食事では違いがありますか
血中濃度を上げるという点ではどちらも25(OH)Dとして測られます。2023年の東京の研究では、測定された成分のほとんどが動物性食品や日光に由来するD3で、植物由来のD2はほとんど検出されませんでした。ただし、どちらの形で摂ったときに健康上の結果が変わるのかを直接比較した大規模試験は、本稿では確認していません。
1日にどれくらい摂ればよいのですか
日本人の食事摂取基準(2025年版)の目安量は18歳以上の男女で1日9.0マイクログラム、耐容上限量は1日100マイクログラムです。栄養機能食品として表示できる量は1日1.65から5.0マイクログラムの範囲に限られるため、制度上、栄養機能食品だけで目安量を満たす設計にはなっていません。個別の必要量は年齢や状態で変わるため、医師や管理栄養士に相談してください。
冬だけ摂れば十分ですか
季節で日光由来の生成量が大きく変わることは推定されていますが、季節限定の摂り方と通年の摂り方を比較した試験は本稿では確認できませんでした。したがって、冬だけで十分かどうかについて、この記事は答えを持っていません。分からないことは分からないと書くのが、この記事の方針です。
ビタミンDを摂れば風邪をひかなくなりますか
なりません。46試験75,541人を統合したメタ解析での急性呼吸器感染症のオッズ比は0.92(0.86から0.99)で、著者ら自身がリスク低下の幅は小さいと述べています。これは集団全体でわずかに割合が下がったという話であり、個人が風邪をひかなくなるという話ではありません。また食品の広告としてこの種の主張を行うことは、日本の制度上できません。
出典
- ビタミンD不足・欠乏の判定指針。日本内分泌学会雑誌 第93巻 S.March号 1から10ページ、2017年3月20日。J-STAGEの論文ページ
- Determination of a Serum 25-Hydroxyvitamin D Reference Ranges in Japanese Adults Using Fully Automated Liquid Chromatography-Tandem Mass Spectrometry。J Nutr 2023年4月、第153巻4号1253から1264ページ。PubMedの抄録(PMID 36806449)
- 同論文の訂正。J Nutr 2026年3月、第156巻101392。PubMedの記録(PMID 41667074)
- 98パーセントの日本人がビタミンD不足に該当。東京慈恵会医科大学 報道発表資料、2023年6月5日。発表資料のPDF。一次資料は上記の査読論文です
- 人間ドックにおける血清25(OH)ビタミンDの測定意義の検討。人間ドック 第37巻4号684から692ページ、2022年。J-STAGEの論文ページ
- Plasma 25-hydroxyvitamin D concentrations, vitamin D deficiency and mortality in community-dwelling Japanese adults(村上コホート)。British Journal of Nutrition 2025年。PMCの全文
- ビタミンD(食事摂取基準の値、栄養機能食品の表示範囲、摂取量調査)。「健康食品」の安全性・有効性情報、国立医薬基盤・健康・栄養研究所。該当ページ
- 栄養成分表示(栄養機能食品)。東京都保健医療局。該当ページ
- 未成年者におけるビタミンDを含む加工食品の摂取状況の調査結果等について。消費者庁、2021年8月25日。該当ページ
- 体内で必要とするビタミンD生成に要する日照時間の推定。国立環境研究所、2013年8月30日。報道発表
- Supplemental Vitamin D and Incident Fractures in Midlife and Older Adults(VITAL骨折)。N Engl J Med 2022年、第387巻4号299から309ページ。PubMedの抄録(PMID 35939577)
- Vitamin D Supplements and Prevention of Cancer and Cardiovascular Disease(VITAL本体)。N Engl J Med 2019年、第380巻1号33から44ページ。PubMedの抄録(PMID 30415629)
- Effects of vitamin D supplementation on musculoskeletal health。Lancet Diabetes Endocrinol 2018年、第6巻11号847から858ページ。PubMedの抄録(PMID 30293909)
- Vitamin D supplementation to prevent acute respiratory infections。Lancet Diabetes Endocrinol 2021年、第9巻5号276から292ページ。PubMedの抄録(PMID 33798465)
- Vitamin D and marine omega 3 fatty acid supplementation and incident autoimmune disease。BMJ 2022年、第376巻e066452。PubMedの抄録(PMID 35082139)
- The D-Health Trial。Lancet Diabetes Endocrinol 2022年、第10巻2号120から128ページ。PubMedの抄録(PMID 35026158)
- Annual high-dose oral vitamin D and falls and fractures in older women。JAMA 2010年、第303巻18号1815から1822ページ。PubMedの抄録(PMID 20460620)
- Vitamin D for the Prevention of Disease: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline。J Clin Endocrinol Metab 2024年、第109巻8号1907から1947ページ。PubMedの抄録(PMID 38828931)
- 25-ヒドロキシビタミンDの算定要件。検査情報システムの解説。該当ページ。一次資料である厚生労働省の通知そのものではありません
関連する記事として、コエンザイムQ10の表示範囲とヒト試験を整理した記事、ビタミンB群と鉄と葉酸の栄養機能食品としての位置づけも同じ読み方で書いています。
本記事は情報提供を目的としたものであり、疾病の診断・治療・予防を目的としたものではありません。