睡眠サプリの成分別エビデンス:メラトニンを除くと何が残るのか

メラトニンとアシュワガンダと5-HTPが日本では食品に使えない理由を厚生労働省の食薬区分で確認したうえで、L-テアニン、マグネシウム、GABA、グリシン、クロセチン、サフラン、ラフマ、バレリアンのヒト試験を試験数、被験者数、用量、信頼区間、資金源まで並べて比較しました。効果量が小さいこと、証拠の確実性が低いこと、素材メーカー主導の根拠が多いことも自己採点表に載せています。

睡眠サプリの棚には、日本だけ大きな穴が空いています。海外のサイトを開くと最初に出てくる成分が、日本の棚には並んでいません。理由は「効かないから」ではなく、日本の法令がその成分を食品として扱っていないからです。この穴を説明しないまま成分を並べても、読者が実際に買える範囲とはずれてしまいます。

この記事は、前回のマグネシウムの記事の続編です。前回は一つの成分を縦に深掘りしましたが、今回は横に並べます。日本国内で食品として流通している睡眠関連成分について、ヒト試験の本数、被験者数、用量、信頼区間、そして誰が資金を出したのかを、同じ物差しで比べます。数値と法令の条項はすべて本稿の執筆時に一次資料へあたって確認しました。確認できなかった論点は、書き方を弱めるのではなく、落としました。

先に結論を書きます。ヒト試験の本数が最も多いのはL-テアニンですが、報告されている効果量は小さく、マグネシウムは効果推定値こそ出ているものの証拠の確実性は「低いから非常に低い」と評価されています。GABAは、経口で摂ったものがヒトの脳に届くかどうか自体が未確定です。グリシンは小規模な試験が中心で、主要な報告は同じ企業の研究所から出ています。バレリアンは2024年のアンブレラレビュー(複数の系統的レビューをさらにまとめた研究)で、不眠症に対する有効性の証拠はないと結論づけられました。

私たちはサプリメントを扱う立場です。だからこそ、自社が属する分野に不利な事実も同じ字の大きさで書きます。そのほうが、あとで読み返して役に立つ記事になるからです。

なぜこの記事はメラトニンを扱わないのですか

日本ではメラトニンを含む食品を販売できないため、比較の対象になりようがないからです。厚生労働省は無承認無許可医薬品に関する公表文書のなかで、「メラトニンは米国等の国で医療用医薬品として使用されている成分であり、わが国では専ら医薬品として用いられる成分(医薬品成分)です。」と明記しています。米国のサプリメント売場で一番目立つ棚が、日本では法律上そもそも存在しないということです。

この線引きの根拠は、厚生労働省の「食薬区分における成分本質(原材料)の取扱いの例示」(薬生監麻発0331第9号、令和2年3月31日)です。この通知には二つの別添がついています。別添1は「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」で、ここに載った成分を食品に使うことはできません。別添2は「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」で、こちらは病気を治すような表現をしなければ食品として扱えます。

睡眠まわりでは、この二つのリストの間に日本特有の分かれ目があります。海外で睡眠やストレスの文脈で売られているアシュワガンダと5-HTPは、いずれも別添1、つまり医薬品側です。つまり日本の消費者が食品として買える睡眠関連成分の集合は、英語圏の記事が前提にしている集合とは最初から違います。

表1 睡眠まわりでよく名前の挙がる成分の食薬区分(厚生労働省 薬生監麻発0331第9号 別添1および別添2、令和2年3月31日)
成分 通知上の記載 食品として使えるか
メラトニン 厚生労働省が別途「わが国では専ら医薬品として用いられる成分(医薬品成分)」と明記 使えない
ウィザニア(アシュワガンダ) 別添1に「全草」として収載 使えない
5-HTP(L-5-Hydroxy-tryptophan) 別添1に収載 使えない
カバ(カバカバ) 別添1に「全草」として収載 使えない
グリシン 別添2に収載 医薬品的な効能効果を標ぼうしない限り使える
γ-アミノ酪酸(ギャバ) 別添2に収載 同上
トリプトファン 別添2に収載 同上
カノコソウ(セイヨウカノコソウ、バレリアン) 別添2に「根・根茎」として収載 同上
カミツレ(カモミール) 別添2に「小頭花」として収載 同上

ここで誤解しやすい点をひとつ潰しておきます。別添2に載っていることは、その成分が睡眠に効くという意味では一切ありません。食品として扱ってよいかどうかの区分であって、有効性の評価ではないからです。本記事の後半で見るように、別添2に載っている成分のなかにも、証拠がかなり薄いものが混ざっています。

日本で「睡眠の質」と書けるのはどういう仕組みですか

機能性表示食品という届出制度を通した場合だけです。消費者庁は自らこの制度を、「国の定めるルールに基づき、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要な事項を、販売前に消費者庁長官に届け出れば、機能性を表示することができる制度です。」と説明しています。そして同じページで、「特定保健用食品(トクホ)と異なり、国が審査を行いませんので、事業者は自らの責任において、科学的根拠を基に適正な表示を行う必要があります。」と書いています。

この一文は、パッケージの読み方を根本から変えるはずのものです。「睡眠の質の向上に役立つ機能が報告されています」という文が箱に印刷されていても、それは国がその製品を審査して認めた結果ではありません。事業者が科学的根拠を添えて届け出た、という事実を示しているだけです。食品表示基準は機能性表示食品に対して、「機能性及び安全性について国による評価を受けたものではない旨」と「疾病の診断、治療、予防を目的としたものではない旨」の表示を義務づけています。さらに加工食品では、「疾病に罹患している者、未成年者、妊産婦(妊娠を計画している者を含む。)及び授乳婦に対し訴求したものではない旨」も必要です。

制度の信頼性については、2024年以降に手が入っています。食品表示基準と食品衛生法施行規則が改正され、健康被害情報の報告が義務化されました。サプリメント形状の機能性表示食品に対するGMP(適正製造規範、原材料の受け入れから出荷までを組織的に管理する仕組み)に基づく製造管理の要件化は、業界専門紙の報道によれば2026年9月1日から実施とされています。つまりこの記事を書いている時点で、ようやく1か月が経ったところです。制度が整いつつあるという事実は、これまで出てきた届出の科学的根拠が強かったことを意味しません。

棚の側にも動きが出ています。NHKは2026年4月17日、消費者庁のまとめとして、自己点検報告の義務化にともない、これまでにおよそ27パーセントの機能性表示食品で販売終了などの理由により撤回届けが出されたと報じました。これは報道を通じた数字であり一次資料そのものではありませんが、届出の数がそのまま「生きている商品の数」ではないことを示しています。表示制度の全体像は、栄養機能食品と機能性表示食品の制度の違いと、ビタミンB群や鉄葉酸の栄養機能表示の実際の文言のほうで詳しく書いています。

表2 日本の三つの表示制度と睡眠に関する表示の可否(消費者庁および東京都保健医療局の解説、厚生労働省告示第125号)
区分 国の関与 表示できる内容の決まり方 睡眠に関する表示
特定保健用食品(トクホ) 国が審査する 個別に許可された文言 本稿で確認した睡眠関連の市販表示のなかには見当たりませんでした
機能性表示食品 届出のみ、個別審査なし 事業者が科学的根拠を添えて届け出た文言 可能。市販の睡眠関連表示はこの枠組みによるもの
栄養機能食品 許可申請も届出も不要 国が定めた定型文のみ 定型文に睡眠に触れるものは存在しない
いわゆる健康食品 制度上の分類ではない 該当する枠組みがない 本表の比較対象外

マグネシウムの証拠はどこまで強いのですか

効果推定値は出ていますが、証拠の確実性は研究者自身が「低いから非常に低い」と評価しています。前回の記事の中心にあったMah と Pitre の系統的レビューとメタアナリシス(BMC Complementary Medicine and Therapies、2021年、21巻125)は、高齢者の不眠症状を対象に経口マグネシウムとプラセボを比べた無作為化比較試験を3件、合計151人ぶん集めたものです。3件しかありません。

主要な結果はこうです。入眠潜時(布団に入ってから眠りに落ちるまでの時間)は、マグネシウム群でプラセボ群より17.36分短いという統合値でした(95パーセント信頼区間はマイナス27.27からマイナス7.44、p=0.0006)。一方で総睡眠時間は16.06分長いという方向でしたが、統計的に有意ではありません(95パーセント信頼区間はマイナス5.99から38.12、p=0.15)。著者らは全試験が中等度から高いバイアスリスクにあり、アウトカムを支える証拠の質は低いから非常に低いと書いています。GRADEの「低い」は、「効果推定値に対する信頼は限定的であり、真の効果は推定値と実質的に異なる可能性がある」という定義です。

ここからが、日本の読者にとって一番効く話です。この3件の試験で使われた元素マグネシウムの量は1日320ミリグラムから729ミリグラムで、1日2回から3回に分けて摂られていました。追跡期間は20日から8週間です。ところが日本では、国立健康・栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報が、「通常の食品以外からの摂取量の耐容上限量は、成人の場合350 mg/日」としています。栄養機能食品としてマグネシウムを表示する場合の1日当たりの摂取目安量の範囲も、厚生労働省告示第125号で80ミリグラムから300ミリグラムと決められています。つまりメタアナリシスで効果が出た用量の大半は、日本のサプリメントとして通常想定される範囲の上端を超えています。

そして栄養機能食品としてマグネシウムに許された文言は、「マグネシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素です。」と「マグネシウムは、多くの体内酵素の正常な働きとエネルギー産生を助けるとともに、血液循環を正常に保つのに必要な栄養素です。」の二つです。睡眠という語はどちらにも出てきません。同じ告示は注意喚起として、「多量に摂取すると軟便(下痢)になることがあります。」の表示も求めています。厚生労働省のe-ヘルスネットのマグネシウムの項目も、サプリメントや薬で摂り過ぎると下痢を起こすことがあると書いており、睡眠には触れていません。用量と表示の読み方は、サプリメントの用量とラベルの読み方のほうにまとめてあります。

まとめると、マグネシウムは「安くて広く手に入るので試す価値はあるかもしれない」という水準の推奨に留まります。実際、著者らの結論文もその書き方です。効くと言い切れる材料ではありません。

L-テアニンの試験は何本あって、効果はどれくらいですか

この分野で最も試験数が多い成分ですが、効果量は小さいと読むのが正確です。Sleep Medicine Reviews(2025年、81巻102076)に載った系統的レビューとメタアナリシスは、無作為化比較試験19件、合計897人を集め、そのうち18件をメタアナリシスに含めました。この規模は、睡眠サプリの成分としては例外的に大きいほうです。

統合された効果量は次のとおりです。入眠潜時は標準化平均差0.15(95パーセント信頼区間0.01から0.29、p=0.04、10試験)でした。日中の機能低下は0.33(同0.16から0.49、p<0.001、9試験)、全体的な睡眠の質は0.43(同0.04から0.83、p=0.03、12試験)です。標準化平均差0.15という値は、慣習的な目安では「小さい」の下限あたりに位置し、しかも信頼区間の下端が0.01で、ほとんどゼロに接しています。統計的に有意であることと、体感できる差が出ることは別の話です。

別の系統的レビュー(Nutritional Neuroscience、2026年、29巻224から238)は13件、合計550人を対象に、1日50ミリグラムから900ミリグラムという用量範囲を検討し、1日200ミリグラムから450ミリグラムが安全で睡眠を支える範囲として妥当だとしています。ただし著者らは、客観指標を用いた質の高い試験、作用機序の研究、そして臨床的に不眠症と診断された人を対象とした研究が今後必要だと述べています。Sleep Medicine Reviews側のレビューも、純粋なL-テアニン単独の試験が少ないことをさらなる検討課題として挙げています。多くの試験が他の成分との配合品で行われているという意味です。

個別試験の例として、Nutrients(2019年、11巻10号2362)の無作為化プラセボ対照クロスオーバー二重盲検試験があります。被験者は30人(男性9人、女性21人、平均年齢48.3±11.9歳)で、1日200ミリグラムのL-テアニンを4週間摂取しました。ピッツバーグ睡眠質問票の総得点はL-テアニン摂取後に低下し(p=0.013)、入眠潜時、睡眠障害、睡眠薬の使用の下位尺度も低下しました(いずれもp<0.05)。この試験は太陽化学株式会社から資金提供を受けており、著者のうち2人は同社の所属です。利益相反があるから結果が嘘だという話ではありませんが、読む側は必ず把握しておくべき情報です。

GABAは飲んで脳に届くのですか

ヒトで血液脳関門を通ることを示したデータは、今のところありません。Frontiers in Neuroscience(2020年)の系統的レビュー「Effects of Oral Gamma-Aminobutyric Acid (GABA) Administration on Stress and Sleep in Humans」は、この点を正面から扱っています。著者らは、脳波の反応など間接的にGABAが脳に到達している可能性を示す所見はあるとしつつ、ヒトにおける血液脳関門の透過性を示すデータは現時点で存在しないと書いています。

レビューが集めたのはプラセボ対照のヒト試験14件で、そのうち睡眠を扱ったものは5件です。用量はストレス関連で1日2.01ミリグラムから100ミリグラム、睡眠関連では発酵由来GABA100ミリグラムから300ミリグラムでした。著者らは、試験手法の不均一性のために定量的メタアナリシスを行えなかったと明言しています。加えて、14件のうち11件に企業所属の著者が含まれるという利益相反、被験者数の少なさ、対照群と介入群の人数が揃っていない試験があることを限界として挙げています。有効な用量も特定できなかったと書かれています。

GABAについて言えるのは「効かない」ではなく「判定に足る材料がまだない」であり、この二つを混ぜないことが大事です。日本ではγ-アミノ酪酸は食薬区分の別添2に載っているため食品に使えますし、届出の数も多い成分です。使えることと、証拠が揃っていることは別の軸だという、表1で触れた話がそのまま当てはまります。

グリシンの研究は実際に何を示していますか

小規模な試験が中心で、主要な報告が同じ企業の研究所から出ているというのが、まず押さえるべき事実です。よく引用されるのはYamadera らの報告(Sleep and Biological Rhythms、2007年、5巻126から131)です。抄録は、睡眠に満足していない状態が続いているボランティアに就寝前3グラムのグリシンを摂らせ、主観的な睡眠の質と睡眠効率(睡眠時間を床上時間で割った値)が向上し、睡眠ポリグラフ上の入眠潜時と徐波睡眠までの潜時が、睡眠構築を変えずに短縮したとしています。日中の眠気が軽くなり、記憶の再認課題の成績も上がったと書かれています。

ここで正直に書いておくべきことがあります。この論文の公開されている抄録には、被験者数が書かれていません。本稿が参照できた範囲では人数を一次資料で確認できませんでした。規模の見当をつける材料としては、味の素株式会社が2007年10月24日に出した別の報告があります。健常なヒトボランティア10名(男性3名、女性7名、20から57歳)を対象に、就寝2時間前にグリシン3グラムを含む食品またはプラセボを摂らせる二重盲検クロスオーバー試験で、深部体温の変化を測ったという内容で、第32回日本睡眠学会での発表とされています。これは企業の発表資料であり一次資料ではありませんが、この分野の試験規模が10人前後だという感覚はつかめます。

作用機序の側からは、Journal of Pharmacological Sciences(2012年、118巻145から148)のレビューがあります。就寝前のグリシン摂取が不眠傾向のある人の主観的な睡眠の質を改善したという自らの報告を引き、ラットでは血中と脳脊髄液のグリシン濃度が上がり、皮膚血流の増加とともに深部体温が下がったとしています。眠りの入口で深部体温が下がることが知られているため、これが機序かもしれないという筋立てです。著者2名はいずれも味の素株式会社の研究所に所属しています。

加えて、本稿の検索範囲では、グリシン単独を対象とした系統的レビューやメタアナリシスは見つかりませんでした。成分としての知名度に対して、証拠の積み上げ方はL-テアニンよりもかなり手前の段階にあります。

クロセチンやサフラン、ラフマのような植物由来成分はどうですか

いずれも試験が1本ずつの小規模で、しかも多くは素材メーカーの資金によるものです。クロセチン(クチナシ果実などに含まれるカロテノイド)については、Complementary Therapies in Medicine(2018年、41巻47から51)に無作為化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験があります。軽度の睡眠の悩みを持つ健常成人30人が、1日7.5ミリグラムのクロセチンまたはプラセボを14日間摂り、14日の休薬期間を挟んで入れ替わる設計です。単一チャネル脳波でデルタパワーが有意に増加し、OSA睡眠調査票(中高年版)では起床時の眠気と疲労回復の項目が改善しましたが、他の客観的な睡眠指標には有意差が出ていません。筆頭著者は理研ビタミン株式会社の所属で、資金も同社です。

サフランは、Journal of Clinical Sleep Medicine(2020年、16巻6号937から947)に無作為化二重盲検プラセボ対照試験があります。自己申告で睡眠が良くないとした健常成人が対象で、63人が登録され55人が完了しました。標準化サフラン抽出物14ミリグラムを1日2回、28日間摂取し、不眠重症度指数の合計点でプラセボより統計的に有意な改善が報告されています(p=0.017)。日本で言うと、クロセチンはサフランにも含まれる成分なので、この二つは近い場所にいます。

ラフマは日本市場に固有の例です。素材メーカーである株式会社東洋新薬は2023年1月24日、機能性関与成分「ラフマ由来ヒペロシド、ラフマ由来イソクエルシトリン」を各1ミリグラム、1日当たりで含む製品について、「日常生活における精神的ストレスをやわらげる機能や、日中の眠気をやわらげる機能が報告されています。」という届出表示で受理されたと発表しています。届出番号はH866とされ、科学的根拠は同社が実施したヒト試験に基づく研究レビューです。素材を売る会社が自社で試験を行い、自社で研究レビューを書き、その組み合わせが届出の根拠になるという構造は、機能性表示食品では珍しくありません。制度上は正当な手続きですが、証拠の独立性という観点では割り引いて読む必要があります。

バレリアンの評価はなぜ下がったのですか

2024年のアンブレラレビューが、不眠症に対する有効性の証拠はないと結論づけたからです。European Neuropsychopharmacology(2024年、82巻6から28)のこの研究は、6つのデータベースから70件の記録を集め、系統的レビュー8件を質的分析の対象としました。著者らは、バレリアンの安全性プロファイルは良好だとしたうえで、「the results showed no evidence of efficacy for the treatment of insomnia」と書いています。さらに、主観的な睡眠の質の改善については効果があるように見えるが、定量的あるいは客観的な指標では有効性が示されていないとしています。

一方で、Journal of Evidence-Based Integrative Medicine(2020年)のShinjyo らの系統的レビューとメタアナリシスは、60件の研究(合計6,894人)を集め、主観的な睡眠の質については10件(1,065人)、不安については8件(535人)でメタアナリシスを行い、抽出物の品質のばらつきが結果の不一致の原因ではないかと論じています。7歳から80歳の被験者で重篤な有害事象はなかったとも書かれています。この二つは矛盾しているようで、実は同じことを別の角度から言っています。主観指標では動くが客観指標では動かない、そして試験の質と抽出物の標準化がばらばらだ、という状態です。

主観指標だけが動く成分は、プラセボ反応と区別することが構造的に難しく、それが評価を下げる最大の理由です。睡眠の自己評価はとくに期待の影響を受けやすい領域です。バレリアンは日本でも食薬区分の別添2にカノコソウとして載っており食品に使えますが、使えることと効くことは別だという話が、ここでも同じ形で現れます。

表3 成分ごとのヒト試験の要点(本稿で確認した範囲、2026年9月30日時点)
成分 最も強い証拠の形 規模 用量 主な結果と条件 資金や所属
L-テアニン 系統的レビューとメタアナリシス2本 19試験897人(2025年)、13試験550人(2026年) 1日50から900ミリグラム、推奨範囲は200から450ミリグラム 入眠潜時の標準化平均差0.15(95パーセント信頼区間0.01から0.29、p=0.04、10試験)、睡眠の質0.43(同0.04から0.83、p=0.03、12試験) 個別試験の多くに素材メーカーの関与、純粋な単独投与試験が少ない
マグネシウム 系統的レビューとメタアナリシス1本 3試験151人、高齢者の不眠症状 1日320から729ミリグラム、2から3回に分割、20日から8週間 入眠潜時マイナス17.36分(95パーセント信頼区間マイナス27.27からマイナス7.44、p=0.0006)、総睡眠時間は有意差なし(p=0.15) 証拠の質は低いから非常に低い、全試験が中等度から高いバイアスリスク
GABA 系統的レビュー1本、メタアナリシス不可 14試験のうち睡眠は5試験 睡眠関連で発酵由来1日100から300ミリグラム 統合不能。ヒトでの血液脳関門透過を示すデータなし、有効用量も特定できず 14試験中11試験に企業所属の著者
クロセチン 無作為化二重盲検クロスオーバー試験1本 30人、軽度の睡眠の悩み 1日7.5ミリグラム、14日間 デルタパワー有意増加、起床時眠気と疲労回復は改善、他の客観指標は有意差なし 筆頭著者と資金が理研ビタミン株式会社
サフラン 無作為化二重盲検試験1本 63人登録、55人完了 標準化抽出物14ミリグラムを1日2回、28日間 不眠重症度指数の合計点でプラセボより有意な改善(p=0.017) 大学所属の研究チーム
グリシン 個別の小規模試験と機序レビュー 抄録に人数の記載なし。関連する企業発表の試験は10人 就寝前3グラム 主観的な睡眠の質と睡眠効率の向上、入眠潜時と徐波睡眠潜時の短縮 主要な報告が味の素株式会社の研究所
ラフマ由来成分 素材メーカーによる研究レビュー 届出H866の根拠として自社ヒト試験 ヒペロシドとイソクエルシトリン各1ミリグラム 精神的ストレスと日中の眠気に関する届出表示 試験とレビューの実施者が素材メーカー
バレリアン アンブレラレビュー1本と系統的レビュー1本 系統的レビュー8本を質的分析、別レビューは60研究6,894人 試験間で抽出物の標準化がばらばら 不眠症に対する有効性の証拠なし。主観指標のみ動き、客観指標では示されていない 安全性プロファイルは良好との評価

結局、成分の前に確かめるべきことは何ですか

睡眠時間そのものと、行動面の土台です。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は成人に対して、個人差はあるものの6時間以上の睡眠時間を目安とすることを推奨事項として挙げています。高齢者については、床上時間が8時間以上とならないことを目安とするという推奨が置かれています。この文言は本稿では専門団体による転載を通じて確認しました。公式のPDFは厚生労働省のサイトで公開されています。

研究側の位置づけも同じ方向です。Nutrition Reviews(2026年、84巻5号962から980)のナラティブレビューは、睡眠の量と質は良い睡眠衛生に基づく比較的単純な習慣によって大きく改善できる(習慣についての学術的な記述であり、食品の広告で製品の効果としてこう書くことは禁止されています)としたうえで、食事とサプリメントのプロトコルはそうした行動の変化を補完する補助的な睡眠補助として働きうると述べています。順序が逆になっている買い物、つまり睡眠時間を削ったままサプリメントで埋めようとする買い物は、どの成分を選んでも設計上うまくいきません。

そのうえで成分を選ぶなら、判断材料は三つです。第一に、届出表示は国の審査を通ったものではないという前提を忘れないこと。第二に、ラベルの1日摂取目安量が、その成分で効果が報告された試験の用量と同じ桁にあるかを確認すること。第三に、根拠が独立した研究なのか素材メーカー自身の研究レビューなのかを見ること。三つめは製品ページにはほぼ書かれていないので、消費者庁の機能性表示食品の届出データベースで届出番号を引くのが確実です。マルチビタミンの大規模試験の記事で見たように、成分が有名であることと証拠が強いことはまったく相関しません。抗酸化や代謝の領域でも同じ構図が出ることは、コエンザイムQ10のヒト試験の記事とアスタキサンチンのヒト試験の記事で確認できます。

この記事の主張はどれくらい強いのですか

強い主張と弱い主張が混ざっているので、自分で採点して並べます。法令と公的文書に基づく部分は強く、成分の有効性に関する部分はおおむね弱いというのが全体像です。自社が属する分野に不利な採点も、そのまま載せます。

表4 本記事の主張の自己採点
主張 証拠の種類 強さ
メラトニンは日本で食品として販売できない 厚生労働省の公表文書の明記 強い
アシュワガンダと5-HTPは日本では医薬品側の区分にある 厚生労働省通知の別添1の収載 強い
機能性表示食品は国の個別審査を受けていない 消費者庁の自らの説明と食品表示基準の義務表示 強い
栄養機能食品の定型文に睡眠に触れるものはない 厚生労働省告示第125号の文言と行政解説 強い。ただし「存在しない」という否定の確認は本稿が通読した範囲に限る
マグネシウムで入眠潜時が17.36分短縮したという統合値 3試験151人のメタアナリシス、GRADEは低いから非常に低い 弱い
マグネシウムの有効用量は日本の想定範囲の上端を超える 告示の上限300ミリグラムと耐容上限量350ミリグラムを論文の用量と突き合わせたもの 中程度。突き合わせ自体は本稿の作業であり、既存文献の指摘ではない
L-テアニンの効果量は小さい 19試験897人のメタアナリシス、標準化平均差0.15から0.43 中程度
GABAがヒトの脳に届くかは未確定 系統的レビューの明示的な記述 中程度
グリシンの証拠は小規模で企業依存 個別試験の抄録、企業発表資料、機序レビューの著者所属 弱い。被験者数を一次資料で確認できていない
バレリアンは不眠症への有効性の証拠がない 系統的レビュー8本を対象としたアンブレラレビュー 中程度から強い
クロセチン、サフラン、ラフマは単一試験かメーカー主導の根拠 個別試験の資金源と届出根拠の種類 弱い
行動面の土台が先という位置づけ 国の睡眠ガイドの推奨事項とナラティブレビュー 中程度。ガイド本体はPDFのため専門団体の転載を併用した
GMPに基づく製造管理の要件化が2026年9月1日に始まった 業界専門紙が消費者庁の決定を報じたもの 中程度。一次資料そのものではない
機能性表示食品の約27パーセントが撤回された NHKが消費者庁のまとめとして報じたもの 中程度。一次資料そのものではない

よくある質問

海外で買ったメラトニンのサプリメントを個人で使うのはどうなりますか

本記事は販売の可否を扱っており、個人の使用については法令の別の部分に関わるため、ここでは判断材料を示しません。確認できているのは、厚生労働省がメラトニンを「わが国では専ら医薬品として用いられる成分(医薬品成分)」と明記していること、そしてメラトニンを含む健康食品が無承認無許可医薬品として公表の対象になっていることです。睡眠の悩みが続いている場合は、成分を探す前に医療機関に相談してください。

マグネシウムを1日500ミリグラム摂れば試験と同じ効果が出ますか

その用量は日本の目安を超えるため、本記事は勧めません。栄養機能食品としてのマグネシウムの1日摂取目安量は厚生労働省告示第125号で80ミリグラムから300ミリグラムと定められており、国立健康・栄養研究所は通常の食品以外からの耐容上限量を成人1日350ミリグラムとしています。同機関は腎機能が低下している場合や高齢者、便秘症の人では高マグネシウム血症のリスクがあることも記載しています。試験の用量をそのまま自分に当てはめる発想自体が、この分野でいちばん危ない読み方です。

L-テアニンとGABAの両方が入った製品は効果が足し算になりますか

足し算になるという根拠は本記事の確認範囲にはありません。Sleep Medicine Reviewsのレビューは、純粋なL-テアニン単独の試験が少ないことを課題として挙げており、配合品の試験が多い状態です。GABAについては系統的レビューが試験手法の不均一性のためメタアナリシスを行えなかったと明記しています。単独の効果量が確定していない成分同士の相加効果を語る材料は、現時点では存在しません。

届出番号が書いてあれば信頼できる製品ということですか

いいえ、届出番号は国の審査を通った証拠ではありません。消費者庁は「特定保健用食品(トクホ)と異なり、国が審査を行いませんので、事業者は自らの責任において、科学的根拠を基に適正な表示を行う必要があります。」と説明しています。届出番号が役に立つのは、その番号でデータベースを引いて、根拠が最終製品を用いた臨床試験なのか研究レビューなのか、誰がそれを行ったのかを自分で確かめられる点です。番号があること自体が品質保証ではありません。

主観的な睡眠の質が良くなったという試験結果は信じてよいのですか

客観指標が同じ方向に動いているかを必ず併せて見てください。バレリアンのアンブレラレビューは、主観的な睡眠の質では改善が見られるが定量的あるいは客観的な指標では有効性が示されていないと書いています。睡眠の自己評価は期待の影響を受けやすいため、主観指標だけが動く結果はプラセボ反応と区別しにくくなります。脳波や睡眠ポリグラフのような測定が併記されている試験のほうが、判断材料としては強いということです。

結局どの成分を選べばよいのですか

本記事は特定の成分を推奨する立場を取りません。確認できた事実として、試験数が最も多いのはL-テアニンで報告されている効果量は小さく、マグネシウムは効果推定値があるものの証拠の確実性が低く、GABAとグリシンは判定に足る材料が揃っておらず、バレリアンは不眠症への有効性の証拠がないと結論された、という状態です。厚生労働省の睡眠ガイドが挙げる睡眠時間の確保と生活習慣の見直しのほうが、どの成分よりも土台にあります。

本記事は情報提供を目的としたものであり、疾病の診断・治療・予防を目的としたものではありません。睡眠に関する症状が続いている場合や、服薬中の場合は、医療機関にご相談ください。

出典

本稿の数値、日付、法令の条項はすべて執筆時に下記のリンクを開いて確認しました。学術論文については、出版社のサイトが機械的な取得を拒否する場合、公的な文献データベース(Europe PMC、J-STAGE、J-GLOBAL)の記録を示しています。一次資料ではないものは、その旨を明記しています。

行政および公的機関の資料

査読論文および文献データベースの記録

  • Bulman A, D'Cunha NM, Marx W, Turner M, McKune A, Naumovski N. The effects of L-theanine consumption on sleep outcomes: A systematic review and meta-analysis. Sleep Medicine Reviews. 2025年81巻102076. doi:10.1016/j.smrv.2025.102076 Europe PMCの記録
  • Cotter J, Caddick CE, Harper JL, Ebajemito JK. Examining the effect of L-theanine on sleep: a systematic review of dietary supplementation trials. Nutritional Neuroscience. 2026年29巻224-238. doi:10.1080/1028415X.2025.2556925 Europe PMCの記録
  • Mah J, Pitre T. Oral magnesium supplementation for insomnia in older adults: a Systematic Review and Meta-Analysis. BMC Complementary Medicine and Therapies. 2021年21巻125. doi:10.1186/s12906-021-03297-z Europe PMCの記録、全文 Europe PMCの全文XML
  • Valente V, Machado D, Jorge S, Drake CL, Marques DR. Does valerian work for insomnia? An umbrella review of the evidence. European Neuropsychopharmacology. 2024年82巻6-28. doi:10.1016/j.euroneuro.2024.01.008 Europe PMCの記録
  • Effects of Oral Gamma-Aminobutyric Acid (GABA) Administration on Stress and Sleep in Humans: A Systematic Review. Frontiers in Neuroscience. 2020年14巻923. https://www.frontiersin.org/journals/neuroscience/articles/10.3389/fnins.2020.00923/full
  • Umigai N, Takeda R, Mori A. Effect of crocetin on quality of sleep: A randomized, double-blind, placebo-controlled, crossover study. Complementary Therapies in Medicine. 2018年41巻47-51. doi:10.1016/j.ctim.2018.09.003 Europe PMCの記録
  • Lopresti AL, Smith SJ, Metse AP, Drummond PD. Effects of saffron on sleep quality in healthy adults with self-reported poor sleep: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2020年16巻6号937-947. doi:10.5664/jcsm.8376 Europe PMCの記録
  • Hidese S, Ogawa S, Ota M, Ishida I, Yasukawa Z, Ozeki M, Kunugi H. Effects of L-Theanine Administration on Stress-Related Symptoms and Cognitive Functions in Healthy Adults: A Randomized Controlled Trial. Nutrients. 2019年11巻10号2362. doi:10.3390/nu11102362 Europe PMCの記録
  • Bannai M, Kawai N. New therapeutic strategy for amino acid medicine: glycine improves the quality of sleep. Journal of Pharmacological Sciences. 2012年118巻2号145-148. J-STAGEの記録
  • Yamadera W, Inagawa K, Chiba S, Bannai M, Takahashi M, Nakayama K. Glycine ingestion improves subjective sleep quality in human volunteers, correlating with polysomnographic changes. Sleep and Biological Rhythms. 2007年5巻2号126-131. J-GLOBALの記録
  • Conti F. Dietary Protocols to Promote and Improve Restful Sleep: A Narrative Review. Nutrition Reviews. 2026年84巻5号962-980. doi:10.1093/nutrit/nuaf062 Europe PMCの記録

一次資料ではない資料(専門紙、業界団体、素材メーカー)

Back to blog